ライターの相棒
ライターの相棒、取材の必需品といえば、ボイスレコーダーだ。ICレコーダーとも言う。大抵はインタビューの前日にリュックの中に入れておく。取材時は念には念をということで、二つ回す。社名入りのケースは、息子くんの手づくりだ。
サッカー日本代表選手、漫画家、ロボットクリエーター、企業の社長、声優、政治家、医師、学者、大学生、オリンピアン、英語教育や歴史の専門家など、さまざまな人に話を聴いてきた。
取材の基本的なやり方は変わらない。事前準備を入念に行い、当日はインタビュイーの話に身を委ねる。情報収集をしっかりと行うのは最低限の礼儀であり、取材を円滑に進めるためだ。ただし、きっちり質問の順番を決めて「こんなふうな答えが返ってくるかな」という想定はしない。
質問リストは用意することもあるし、しないこともある。だいたい取材場所に行くまでに最初の質問を考える。できればインタビュイーが身を乗り出しそうな問いから始めたい。とはいえ、あまり変化球すぎないようにも心がけている。最初の質問は、相手がリラックスして話し出すための呼び水のようなものだ。
時々、確認するようにボイスレコーダーに目を向けるのは時間を把握するため。ほとんどのインタビューは大まかな時間が決められている。インタビュー中はうなずきながら、相手の仕草や間合いに注意を払う。その人の話を聴いて、その場の空気を伝えられるのは自分一人しかいない。腕組みをして空をにらんだり、しばらく黙りこくったり、急に早口になったりという何らかの変化は無視できない。何らかの変化に何らかの意味を込める必要はないけれど、できればたった一人の目撃者として原稿に落とし込みたい。
初めてのインタビューから──あまりの緊張からテープレコーダーを回せないという大失態をさらしたっけ──20年近くがたつ。緊張することはもうなくなった。相棒のボイスレコーダーとともに、取材テーマから大きく逸れない範囲で話したいことを話してもらい、その思いを限られた文字数で書いていくライターの作業は純粋に楽しい。
ちなみに、いままでで出来が良かった取材の一つが指原莉乃さんへのインタビューだ。手前味噌だけれど、トップランナーの「アイドル論」と「プロデューサー論」をうまく引き出せた気がする。