ときどき、Tシャツのデザイン
菅野はときどき、Tシャツのデザインで肩の力を抜く。
原稿が仕上がったとき、原稿に煮詰まったとき。仕事が立て込んでいるとき、仕事が凪のとき。家族と楽しい時間を過ごしたとき、家族とけんかしたとき。状況はさまざまだ。ふと思い立って、古びた白いMacBookを立ち上げる。デザインのアイデアがなくても、これまた年季の入ったillustratorやPhotoshopと向き合う。
小さなころから絵を描くのは好きだった。中学時代の担任は美術の先生で、彼女からは美大の進学も勧められたような気がする。結局、大学は英米文学科を選んだけれど、このころにもうオリジナルのTシャツをつくっている。絵を描いて、友人からシルクスクリーンの機械を借りて、プリントしたTシャツを好きな女の子にプレゼントした。
IllustratorとPhotoshopを初めて使ってTシャツをつくったのは、10年以上も前になる。娘の3歳の誕生日プレゼントとしてつくった。まだ2歳の娘が描いた家族の絵がとてもうれしくて、そのやさしい線をTシャツにしたいと思った。
仕事の関係で少しだけいじり始めていたIllustratorとPhotoshopを使いこなすのには試行錯誤した。ストーン・ローゼズやサニーデイ・サービス、ティーンエイジ・ファンクラブやオアシスを聴きながら、完成までに2カ月くらいかかった記憶がある。誕生日を祝う旅行で訪れた熱海のホテルで、3歳になったばかりの娘にTシャツを渡したときの、はじけるような笑顔はいまも忘れられない。
誰かが喜んでくれるのはやはりうれしい。10年以上、ひそかにつくり続けてきたTシャツのデザインは300以上に及ぶ。同じく300枚ほどが国内外に出回っていていることを考えると、ちょっとだけ誇らしい気分になる。菅野はいつか、街のどこかで、自分のTシャツを着た人とばったり出くわしたいと思っている。